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    2023年12月31日 update

    母の健康問題がきっかけでしばらくライブを休んだ時期があった。ほどなくコロナ禍に入り、シングルはいくつかリリースしたものの、制作中だった新作アルバム用のデモも一度全て白紙に戻していた。
    2022年、とても久しぶりに行ったアコースティックピアノでのライブで感じた生音の響きと演奏がきっかけとなり、ライブ後すぐに翌2023年にアルバムを出すことを決めた。フットワーク軽くトラック制作を自分ひとりで完結できるDTMは便利だし利用もするのだけど、今だからこそソロ名義でもあえてエンジニアさんとミュージシャンの共同作業でアルバム単位のまとまったサウンドをスタジオレコーディングし、残したいと思った。はじめは既存の新曲デモやすでにライブで演奏していた配信シングル曲のリアレンジなどを収録することを考えていたけれど、結果的に全て完全な新曲だけのアルバム制作となった。いつもライブでお世話になっているmineoさんをはじめ、Hisayoちゃん、波多野裕文さん、IchitoMoriさんというゲストミュージシャンの方々と共同制作時に対話を重ねたおかげで俯瞰した視点でサウンドを作れたと思う。進め方はみなさん本当にさまざまででとても勉強になったし、岩谷さんとの録音も改めて音作り、その先の音楽そのものを知り直すきっかけにもなった。

    歌詞の制作というのは私にとって1番の難所で、もがき続ける苦行となることが多い。制作の段階でここがうまくいかないと全てが進まなくなる。そういうわけで歌詞は今回のアルバム制作の重要な課題でもあった。ここで少しだけ作詞の話をしたい。90年代に始めたそれでよかったのか?という名前のバンド、名前を変えて後続するネルソングレート(2005年活動休止)も含めると私は18歳から26歳までこのバンドで活動していたことになる。ずっと「フィクション」を書いていた。この頃は私自身を語る曲はもちろん、いわゆるラブソングも書いてない。2004年にソロ活動を始め新しいチャレンジのひとつとして恋愛がテーマの歌も取り入れるようになったが、架空の映画やアパレルブランドのサントラ制作などそれぞれコンセプトがあり、物語の登場人物にかわってナレーションするような感覚で作っていた。また2006年から始めたバンドmiu mauの楽曲の歌詞はファッション誌から着想を得て書いたものも多い。それぞれの形態でライブ演奏のみなどの音源化していない楽曲も含めると、これまでわりとたくさんの歌詞を書いてきたと思うけれど、私の考えや経験を素直に反映したり表現した歌詞というのは実は数曲ほどだった思う。年々社会の片隅に身を置くひとりとして日々学び改め更新、刷新していかなくてはいけないと考えることが多くなった。私自身の日常をそのまま切り取った内容とは異なるけれど、日々の暮らしから生まれた疑問や学んだことは表現を模索しながらも今の言葉として、聴いていただくかもしれない方にたくさんの問いかけを提示したような歌詞になったと思っている。「フィクション」だけを書き始めた90年代と比べて社会状況も大きく変動し、歌詞を書くのはとても難しい時代だとも思うけれど、私は音楽で何を残していくか、そういうことをよく考えている。2023年12月

    1.Kotoba
    Vocal, Synthesizer: Masami Takashima
    Drums: mineo kawasaki
    デモを作り始めた当初はもう少しダビーな音をイメージしていたが、ポストパンク的な要素が強めになった。一人でトラックメイクした段階でほぼ完成に近づいたので2022年中に配信でシングルリリースする予定で当初考えていたけれど、mineoさんにドラムをお願いしてアルバムに収録することにした。全体の完成イメージはほぼまとまっていたので録音の進行は早かったと思う。タム、フロア、キックの音域を少しずつ下げて重さを出している。ボーカルもコーラスもだいたい2テイクほどで完了した。

    2.Anywhere
    Vocal, Piano, Synthesizer: Masami Takashima
    Guitar: Hirofumi Hatano
    Drums: mineo kawasaki
    熱を鎮めるような、だけどひりひりとしていて存在する場所を熟知した波多野さんのギターにハッとした。「無意識のうちに意図していたこと」が明確になったものだった。この解釈を受けてシンベを調整することにした。そうして挑んだレコーディングでmineoさんのドラムの録音ではキック、ハット、スネアの3点で丸い空間ができるよう調整しながら音作りをしたのが印象に残っている。後半のライドにいくあたりから光が入ってくるようですごくいい。絶望する現実を私たち大人は変えていく必要がある。

    3.Port
    Vocal, programmed, Synthesizer: Masami Takashima
    ある程度アルバム全体の内容が見えてきた中、一番最後に制作したトラックとなる。2月のライブでドラムマシンで一度演奏したが歌録りまでに何度もエディットを続けた。散りばめたシンセと、自宅の洗濯機の回る音をサンプリング/加工し作った音を各所に重ねている。アウトロのランダムなドラムマシン音はエンジニアの岩谷さんからの提案を取り入れ手弾きで演奏している。偉大な音楽のレジェンドたちへリスペクトを込めて。

    4.屋根の上
    Vocal, Piano, Synthesizer: Masami Takashima
    Bass: Hisayo
    Drums: mineo kawasaki
    とある画家が戦前のパリを描いた1枚の絵にインスピレーションを受けて作った。いわゆる風景画ではあるがこの頃の時代背景(作家はこの絵を描いたあと日本に向かう最後の船で帰国することになったとあとから読んだ)も考えた。アレンジについては当初、90年代のハウスのようなアレンジを考えていてmineoさん、Hisayoちゃんにも最初のアレンジでデモを送った。しかしレコーディング直前になりどうしても気になってしまって急遽アレンジを大胆に変更することにした。ゲストミュージシャンのお二人の音への理解力に助けられた1曲。

    5.惑星
    Vocal, Piano, programmed: Masami Takashima
    Synthesizer: IchitoMori
    「名著」「スクリュー」ななど歌詞に用いられることが少ないだろう 言葉にフォーカスを合わせて作ったトラック。大きなテーマのように思えるタイトルだけど、「惑星」はどちらかというと内側にあるものという解釈を共有し壮大にならないよう意識して制作した。IchitoMoriさんとはメール上でのデータのやりとりだったが、遠隔だけどスタジオ内作業のような感じで楽しく制作できたと思う。「燃えるように考える」はこのアルバムで一番印象的なラインかもしれないと思っている。

    6.現象
    Vocal, Piano, Synthesizer, programmed: Masami Takashima
    Synthesizer: Hirofumi Hatano
    Drums: mineo kawasaki
    デモは808風の音を使ったシンプルなビートにパッド系のシンセ、当初はUKのダブステップのようなイメージも想像しながら作っていたけど、デモとは全然違うドラムをお願いします!と後半部分のドラムを完全に丸投げした。レコーディング中にみんなでアイデアを出し合いながら音のテストを重ねドラムは2本、アフロビート的なタブラっぽいビート、シンバルなど多様なビートとリズムを重ねている。繰り返すことのない波多野さんのシンセの音もすごい。この曲には「時代錯誤」という言葉をどうしても入れたかった。

    7.街の間
    Vocal, Piano, Synthesizer: Masami Takashima
    Bass: Hisayo
    Drums: mineo kawasaki
    「ジャズのレコードからサンプリングして制作したトラックのように演奏をしてみたらどうなる?」というサブテーマからアレンジが始まった。ピアノとドラムという編成でレコーディング前にライブでも演奏しているが、歌詞の内容は歌入れ直前まで20回ほどは書き直したと思う。
    見知らぬだれもが行き交う指先の向こうにある「街」から離れた生活。

    8.Summer Song
    Vocal, programmed, Synthesizer: Masami Takashima
    Laurel HaloやBeatrice Dillonなど普段聴いている電子音楽の影響を私自身も実感するトラック。シンセ3本は全て手弾きしている。サマーソングというとどちらかというとパーティーでのアンセム的な語感があるかもしれないけれど、そうじゃない側面で作りたいと思った。気候の変化による猛暑、祈りを捧げる日、自分の無力感に打ちひしがれそうになるけれど、誰にでも何かできることがあるのではないだろうか。

    9.読書感想文
    Vocal, Piano: Masami Takashima
    最小限の要素で録音したくて自宅のチューニングが狂ったままのピアノ、そしてボーカルのどちらもスマホのボイスレコーダーで録音した。椅子の音も入っている。見知らぬ親子は読書感想文に何を書いたのだろうか。私たち大人は子どもたちの未来に何を残していきますか。

    Masami Takashima 6th Album [Polyphonic]
    ◻︎アルバム特設ページ(取扱店・インタビュー等掲載)


    ◻︎ONLINE SHOP(TWIN SHIPS RECORDS 通販部) https://twin-ships.com/store/
    ◻︎各種配信サービスURL https://ultravybe.lnk.to/polyphonic


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