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14 – 名前のない
2022年6月4日 update
「神のオムライス」
大袈裟だなと思うけど、私にはそんなふうに見えた。
出先で、帰りに何か食べて帰るということはまあまあある。私はお酒を飲まないしできればお米がいい。そうなるとだいたい食事がメインの定食とか中華などを目的にすることが多い。自分たちの年齢くらいのお店が好きなので仕事帰りのサラリーマンたちの行きつけのような、静かに黙々と疲れた体を休めながら食べている人が多いお店が好きだ。そんなこともあり、我が家は飲食店情報が偏っており、困った時は食通の友人のSNSを追いかけたりなどしているのだが、そういえば…と辿り着いた町の小さな食堂に行くことにした。オフィシャルのHP、SNSなどあるはずもなく、某飲食店情報サイトを頼りに辿り着いた。暖簾をくぐり小さいお子さんのいらっしゃるファミリーがお店から出てくるちょうどのタイミングになり、その後、店内に入ると店主さんが「終わり、8時まで」と一言。夫は「あ、すみません、また来ます」と言ったのだが夫の声が小さいので聴こえなかったんだろう、「入りまい」と店内に入れてくださった。申し訳ない気持ちで店内に入ると7時55分だったので、急いで食べて帰ろう、メニュー(4品のみ)から「オムライス2つ」とオーダーした。店主さんはご高齢で体の調子も万全ではないとのことでカウンターごしでのやり取りを少なくするためにいくつかの注意書きがあちらこちらに張り出されてあった。私が生まれるより前からあったんだろうと思う、年季の入った店内は居心地がよい。野球の中継を気にしながら店主さんはオムライスの準備を始めた。私たちは店主さんの背中をずっと見ながら待っていた。長い間ずっと作り続けてきたことが窺える調理器具は体の一部のようで、余分な力を用いずに作られていくオムライス。店主さんの料理の所作にお店の歴史を感じ見入った。すばらしい料理のドラマだった。シンプルで美しい王道のオムライスがカウンター越しに私の前に置かれた。瞬間、私はこのオムライスの虜になった。少し湯気が立っていてなぜかわからないけれど、漫画みたいに光っているように見えた。少しだけ置かれたケチャップも熟練の量で、職人の作るこの一皿をありがたく黙々と頂いた。美味しくて美味しくて食べながら幸せな気持ちがどんどん増してきてなぜかわからないけれど涙が出そうになっていた。一皿のオムライスを一体どのくらいの期間作ってこられたんだろう。歴史を戴いている。そんな気持ちになった。滞在時間は20分ほどだったけれど宝物みたいに思えて、とてもとても感動してお店をあとにした。なんだかすごかったねって夫も同じ気持ちになったようだった。オムライスは一皿650円。余韻だけでもあと数日幸せが続きそう。どうかこれからもお元気で。こんな風に思うことは珍しく込み上げてくる気持ちのままに記しておこうと思う。