• 8 – 名前のない

    2021年9月30日 update

    数年前に書店で買った画家ルドゥーテによる植物図鑑を久しぶりに開いた。フランスの宮廷画家として知られているルドゥーテ。植物画家の第一人者と言われており、名前はわからずともボタニカルアートとしてはとても知られており作品はきっとどこかで見たことがあるはずだ。バラが表紙に描かれている植物図鑑。成長過程がひとつの絵図に凝縮されており、トゲの一本一本、枯れた葉脈も枝分かれする遠近感も不揃いのまま、みずみずしさというより声が聞こえてきそう(喋り出しそう)なほどの生き生きとした描写はどの作品を見ていても圧巻だ。図鑑なので花の名も記載されている。17世紀、18世紀にはこんなに多数の品種があったのかと植物の歴史なんて知る機会がなかったので初めて知った時はとても驚いた。そういえば数年前に香川の展示でみた図録がルドゥーテのように細く繊細に描かれておりすごかったことを思い出した。改めて調べてみるとちょうど同じ時代の作品のようだ。日本は江戸時代後期。讃岐国高松藩の藩主に命じられ残された図録「松平家図譜」が数年前に香川県立ミュージアムで公開展示されていた。細い筆で繊細に描かれた魚、鳥、植物。今にも動き出しそうな姿が膨大な数展示されており、美術のことをよくわからないとても圧倒された。これだけの数の作品を描くのにどのくらいの時間を要したのだろう、と制作過程のことも考えながら鑑賞した。立ち止まりしばらくずっとみていたくらげの線画がいまだに忘れられない。この展示は大変な人気展となったので鑑賞した当日は多くの人で賑わっていた。私はちょうどその時期あまり体調がよくなくて、なんとかぎりぎり最終日に行くことができたのだが、膨大な数の展示を全部見終わるころにはヘトヘトになってしまって、そういうことも含めて体感としても記憶に残っている。

    https://www.kagawa-arts.or.jp/event/201904/event01128.php

    ほぼ同じ時代に描かれたまったく違う国の図録、図鑑。強い生命力、美しい色使い、音が聞こえてきそうな躍動感。これらの作品を大切に残してきた人たちの努力にも思いを寄せている。


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